歌姫
とある小さな町の歌姫は、生涯たった一人の為に歌いつづけた。
それは誰も知らない二人だけの秘密。
歌声を捧げられた男は、多くの観衆の為に歌うべきだと諭したが
歌姫は「一人にさえ必要とされないのに観衆に必要とされるはずがない」と
最後まで舞台に立とうとはしなかった。
だが、彼女はこうも言った。
「貴方に必要とされるのなら他の全てを捨ててもいい」と。
一度でも愛を返してやれば、彼女の人生を変えてやることができたのだろうか?
歌姫の柩を見送りながら、男は彼女の歌声を思い出す。
喝采も本当の笑顔も知ることなく
そこに残るのはただひたすらにひたむきな永遠のラヴ・ソング。
fin.